すばる通信

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2016年7月の一冊『高校入試』

2016.07.08

進学校の高校入試の採点をめぐる疑いと怨念と正義の学校ミステリ

まずはじめに、今回ご紹介する一冊は入試には出ません。テーマが「入試をぶっつぶす!」ですからね(笑)
世間を賑わせている入試の採点ミス問題。2016年度入試でも、中学受験ではすばるでも馴染みのある湘南の学校で、高校受験では横須賀地域のトップ校を含む多くの学校で発覚しています。人間が採点業務をしている以上、ミスが出る可能性を0にすることは出来ませんが、人生の岐路である入試でそれが起きてしまうことは、やはり大きな問題です。今回ご紹介する『高校入試』は、ある公立高校での入試当日を舞台にした、「入試テロ」とでも呼ぶべき学校ミステリです。(小説内で殺人は起きません。ご安心ください)
長澤まさみ主演でドラマ化もされていました。

『高校入試』 湊かなえ / おすすめ学年 中学1年生〜中学3年生

「入試をぶっつぶす!」入試前日に犯人からの予告とも取れる張り紙が校舎に貼られますが、「どうせいたずらだろう」と高をくくる教員たち。特別な警戒態勢を敷くことなく入試当日を迎えます。入学試験当日、ネット上の掲示板に問題のリークや試験会場の実況中継が次々と書き込まれます。もちろん、生徒たちが携帯を持ち込むことは禁止されている「はず」なのにです。2011年に京都大学での入試でYahoo!知恵袋に問題を投稿して解答を得ていた事件も記憶に新しいですが、それを彷彿とさせる行為ですね。

入試も終盤に差し掛かり、最終科目の英語の時間に生徒の携帯電話が教室に鳴り響きます。さらに、回収後に答案用紙が足りないという事態も起こり、事件性が徐々に増してきます。まごつき、狼狽し、責任転嫁をしようとする先生たちの動きは客観視すれば滑稽そのものですが、教育現場にいるものとしては、背筋が凍るような出来事です。

次第に犯人の動機とともに計画の全貌が明らかになっていき、よもやの展開で物語は幕を閉じます。心の奥をえぐるような描写が読者を惹きつけます。小説としての面白さは、ところどころ挿入されるネット掲示板と思われる書き込みの一文。不穏な感じが心にザワつきを刷り込みます。著者湊かなえは、いつも小説の新たな可能性や文字ならではの楽しみ方を教えてくれます。一方で、生徒や先生の心情や表情が目まぐるしく変わっていく姿や、当事者以外の周囲の受験生たちの様子などを、BGMで煽りながら映像化したら一層展開の妙が際立つかな、とも思いました。映像でも合わせて楽しみたい作品です。

地域随一の進学校「一高」で起こる事件。合格したら学習机を捨てるという伝説がある学校です。(学歴の最終目標で入学できたら、もう以降は勉強する必要がないということ)
皮肉たっぷりな表現は、高校受験よりもむしろ過当競争となっている中学受験にこそ当てはまるかもしれません。開成中に合格するために親子で走り続け、目標を達成したらもう親子で会話することもなくなった、、、とかも現実にありそうです。なぜ学ぶのか、何のために誰のために受験をするのか、そして合格って何なのか。著者は読者に、受験生に、私たち教育従事者にも突きつけます。

稀代のストーリーテラー湊かなえの入門編と言える作品。それでも登場人物が多く、視点が次から次へと切り替わるので読書に慣れていない子には読みづらい作品です。伊坂幸太郎や百田尚樹などもこの手法を取っていますので、そちらに読み慣れている人は抵抗なく読めるはずです。今回は、本自体の魅力というよりもテーマ性と入試について再考するきっかけとなればと思いご紹介しました。刊行当時は、「そんなこと、ないない」という世論だったかもしれませんが、現実に繰り返される入試トラブルは、本作のような事件の引き金となる可能性もあります。

湊かなえ作品の特長は何と言ってもゾクゾクくる”こわさ”です。本作でも健在ですが、題材が題材だけにおどろおどろしさにも少々手加減を感じます。家族のゴタゴタ、女同士のドロドロを描かせるなら桐野夏生か湊かなえですね。もっと”こわさ”を味わいたければ、『告白』→『夜行観覧車』と読むと良いでしょう。

学校ミステリをもっと読みたい方は、辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』か宮部みゆき『ソロモンの偽証』がオススメです。小学生向けミステリなら、乙一『銃とチョコレート』なんかはいいかもしれません。

いよいよ夏がやってきます。すばるの生徒たちにとって二度と来ない受験生の夏です。楽しく意味のある学びを提供し、自らの道を自分の力で切り拓いていく、その光明を見出してもらいたいと思っております。自らの未来を賭して挑んだ大事な入試で、採点ミスのような愚行が起きないことを心から祈りつつ。

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2015年11月の一冊『とりつくしま』

2015.11.14

死後、モノに憑依して浮世を眺められる切なくも愛おしさに溢れた物語

再び半年ぶりの更新です。今回は、趣向を変えて重めでいきます。身近な人や、かけがえのない大切な存在がこの世を去った人の思いに寄り添って、書きたいと思います。

小学校二年生の時、父親に尋ねたことがありました。「お父さん、人は死んだらどうなるの?」父は、最初は笑っていましたが、急に真面目な顔になって答えました。「死んだら、無になる。何もない」と。 「無…。」その響きが当時8歳の私には怖くて怖くて仕方がありませんでした。その日は、泣き続け、一睡もできず苦しみました。でも、明けない夜はなく、やがて空は明るみ、カーテン越しに日が差し込んで来て、部屋を明るさと暖かさが包みました。その時、「生きている」ことを初めて実感したような気がします。こうして光溢れる朝を迎えられることは何て素晴らしいことなんだろう、これが生きてるってことなんだろう、と。

私たちの生には限りがあります。そして、生の後に待っているのは、やはり「無」です。想像すると怖くて恐ろしい。事実は時に小説よりも残酷です。でも、そうだとするなら小説や物語くらいは事実や現実よりも、優しいものであってもいいのではないでしょうか。「死」の続きを描いたり、「死」を希望として描いたりしてもいいのではないのでしょうか。今回ご紹介する東直子『とりつくしま』は死んだ後の魂のお話。救われない話も悲しい話もありますが、どこかで優しく、読む人の心に迫るお話が収められている、そんな秀作です。

『とりつくしま』 東直子 / おすすめ学年 小学6年生〜中学3年生

命を落としてしまったある人たちの魂に、「とりつくしま係」が問いかけます。この世に未練や後悔はありませんか? あるのなら、何かのモノになって戻ることができますよ、と。ただし、非生命体のみという条件で。そうして、遺された者たちに心残りがある魂たちは、モノに憑依します。ある母は息子のロージンバッグ(野球の投手が使う白い粉)になり、ある娘は母の補聴器になり、ある夫は妻の日記に、ある子供はよく遊んだ青いジャングルジムに…。

その姿は時に温かく、時に愛おしく、時に言いようのない悲しみに包まれています。全編を通して私が感じたのは、どこかやりきれない「切なさ」です。決して感動満載のお涙頂戴のお話ではありません。お気に入りは「ロージン」「日記」「青いの」です。特に「青いの」は、幼い子供が主人公となっていて、仲の良かった友達の姿をジャングルジムとして見たり、なかなか公園に遊びに来てくれないお母さんを待っていたりと、あまりのいたいけなさに胸が締め付けられます。

遺された人たちは、いつしか亡くなった自分との別れを受け入れます。自らの死を周囲の人たちが受け入れてしまう、その姿を見せつけられる残酷な真実の物語という捉え方もできるでしょう。でも、もし成仏という概念があるのなら、周囲が死を受け入れたその瞬間に、故人が抱えていたこの世への後悔や未練が、良きにせよ悪しきにせよ消えていくのかもしれません。

こんなことも考えました。もしかしたらこの時計にあの人が、ひょっとするとこのぬいぐるみにあの子が…。とか思っていると、身の回りのモノや故人が大切にしていたモノに対する愛着、そして労わる気持ちなども随分と変わって出てくるのではないでしょうか。

命を落としてしまったその人が、どんな形であれ、今も近くにいると感じることは、私たちにとって、また亡くなっていったその人にとって、優しく、豊かなことだという気がします。

当たり前のように私たちは毎日を生きています。でも、その当たり前は次の瞬間に失われるかもしれないのです。死はいつも私たちの隣にあるということを忘れてはいけません。そして、死後の世界などありません。天国にも行けませんし、生まれ変わることもありません。だからこそ、二度とないこの「生」を、毎日を、必死に輝かしく生き抜くべきだと私はそう思っています。

紹介の本筋とは少しずれてしまいましたが、少しだけ死生観について書かせていただきました。偏った考え方かもしれず、反感を与えてしまった場合は申し訳ありません。

本作を作り上げるために著者が死者の世界を想像し、気持ちに寄り添って書いたその過程は、どんなに辛く、切なかったことでしょう。この素敵な本への出会いと著者への感謝を込めてここに拙いながら紹介文を掲載させていただきます。

Amazonでも在庫は少なく、書店でもなかなかお目にかかれない当作品。何らかの方法で皆様に入手していただき、この先も長く読み継がれていって欲しいと思っております。

中学受験出そうな作品と関係なくて申し訳ございません…。また書きます。

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2015年5月の一冊『クラスメイツ』

2015.05.01

誰もが自分という物語の主人公であることを再確認させてくれる24人の中学生の物語

半年ぶりの更新となりました。小学生向けで気軽に読めて、かつ受験にも頻出するこれぞという本が出ましたのでご紹介です。

今も、きっと昔もなんだと思いますが、少年少女たちは「キャラ作り」「キャラ設定」に必死です。「自分はそういうキャラじゃないから」とか「あの人とはキャラが違うから」と二言目には口にします。でもどうでしょう。私たち大人ですら自分の個性、自分の適正を見極めるのにものすごい時間がかかり、そして何十年と生きた今でさえ、「自分」というものをつかまえかねています。どうしてそんなにキャラが重要なんだろう。厳しいことを言えば「自分らしく」なんて言葉を使うのは、まだ早い。「らしさ」が決まっていない時こそ、うすっぺらい殻を破り前に進めばいい。閉じた扉をタタキつぶして進めばいい。どんどん新たな自分を見つけていけたら、それはとても素敵なことだと思います。

『クラスメイツ』 森絵都 / おすすめ学年:小学5年生~中学2年生

今回紹介する森絵都の「クラスメイツ」は、ある中学校一年生の24人学級のお話です。24人それぞれが主人公となる24の連作短編集ということになります。一人一人の物語は、当然ながら他のクラスメイトと多々絡み合いながら進みます。まず感心したのは、配列ですね。この順番でなければ物語にはならない、という絶妙の順番で物語は進行します。一人一人の個性がこれでもか、と浮き彫りにされる形で物語は進行します。

24人の中学生たちは、冒頭にも書いたキャラ設定が割り振られています。「お笑い」「リーダー」「不思議ちゃん」「食いしん坊」「不良」「ファッションリーダー」と中学生時代のことを思い返してみれば、「あぁ、あいつか」と脳裏に浮かぶのではないでしょうか。それぞれのキャラなりの苦しみがあり、自分が与えられたキャラを貫く生徒もいれば、それを抜け出そうともがく生徒もいます。そして、他人を見て様々な感情を抱きます。あの人みたいに面白ければ、あの人みたいに正直でいられたら、あの人みたいにおしゃれだったら。

大人からしてみれば、「そんなことで…」と思うこともあるでしょうが、子どもたちからすれば「大きな問題」となる日常の些細なことが物語の中心です。一人一人にスポットライトを当てながら些細な一年間を書いているので、全体的な物語感はどうしても薄まりますが、一つのクラスでの一年間はそんなに大きな出来事ばかりではありません。そういった意味では、リアリティのある小説でした。一方残念だったのは、全体の雰囲気が温かすぎることです。「少し田舎の少人数クラス」という舞台設定と予想されるので、どうしても仕方ないことですが、現実はもう少しトゲトゲしているし、多分もっと冷たい。一人一人のリアリティと全体のまとまりを追求したために犠牲にした部分でしょう。

会話が多く、超子ども目線で書かれていると言えます。対象年齢は低めでしょう。情景描写、間接表現の入門編として、友情や嫉妬などの感情の変化がわかりやすく描かれます。森絵都特有の色の描写、そして体言止めと口語文のバランスの良さがこの作品でもみられます。特筆すべきは本当に一人一人を主人公として描ききったところです。この登場人物のキャラクター描き分け能力は、恩田陸、誉田哲也と並んで現代エンタメ小説界ではトップクラスですね。

この本を読んだ小学生は一足先に中学生の視点を獲得することでしょう。その意味でも中学受験国語のテキストとして最適と言えます。読書はいつも読者に未知の価値観、世界を教えてくれます。文庫化はまだ先ですし、上巻下巻と二冊構成ですが、小学生高学年にこそおすすめの本です。さらにおすすめの読み方としては、ご家庭のどなたかも読んでいただくことです。(一冊1時間半もあれば読み終わります)そして、この物語を介して会話をしてください。「ここの描写は何を表しているんだろう」「この時、彼はどんな気持ちだったんだろうね」とか、好きなクラスメイツランキングや自分がこの物語の中にいたら誰と仲良しになるか、などの意見交換が出来たら、作者は感涙モノだと思いますし、二冊分の元が取れると思います(笑)

今年中にあと一冊は紹介したいと思います。 今度は中学生を意識した一冊にしたいですね。

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2014年10月の一冊『世界地図の下書き』

2014.10.01

行き詰まった時の逃げ道や希望を教えてくれる少年たちの物語 / 国語科 中本先生

年一回の更新となっているこちらのコーナーです。これぞという本にはなかなか出会えず、選りすぐっていると筆が重くなります。楽しみにされている方、申し訳ありません。

人は「高い志を持った時」に自分の潜在的な力を開放し、大きな成果を得ることが出来るという話を良く聞きます。すばるでも実際に多く見受けられるサクセスケースです。でも、高い志を持つことだけが、人の力を引き出すのでしょうか。「自分がこうしたい」と思った日常のささやかな目標や、「大切な人を喜ばせたい」という身近な人への思いやり、「楽しもう。頑張ろう」といった漠然とした動機。いずれもが自分が成し遂げたい何かに対する弱くも確かな意志であることは間違いありません。そして、その想いは、積み重なれば大きな道しるべとなり、人を誘うことでしょう。だから背伸びをしすぎる必要はないんだ、とそんなことを考えたりもします。

『世界地図の下書き』 朝井リョウ / おすすめ学年:小学5年生~中学3年生

今回紹介する朝井リョウの「世界地図の下書き」が描こうとしているのは、身近な大切な人のために動く少年や少女。その心のつながりこそが魅力の小説です。この時期、「中学受験で使われそうな本」をご紹介するのが、大きなテーマとなっておりますので、その目線も含んでいます。

物語は、夏の祭事“蛍祭り”で小さな紙製のランタンに願いを込めて空に上げる“ランタン飛ばし”が行われていた、とある町が舞台となり、児童養護施設の子どもたちが中心となって進みます。

主人公となる小学6年生の太輔は、小3のときに両親を交通事故で亡くし、児童養護施設の「青葉おひさまの家」で暮らすことになります。様々な事情を抱える同い年や年下の仲間たちと暮らし、閉ざされた心が次第に開いていきます。いじめや「大人の事情」に翻弄されながらも、団結して太輔たちは、途絶えた“ランタン飛ばし”を復活させようと試みます。

朝井リョウのすごさは、人物の切り取り方、要するに人物観察の鋭さです。そして、感じ取った人物像を、巧みで繊細な描写で言葉に出来る作家です。その表現力は、若手小説家の中では、辻村深月と双璧でしょう。

朝井がこれまで描いてきた高校生、大学生、といった年代よりも一つ下の年齢層を主人公に置いたこの作品。小学生にしては考えが深すぎたり、行動が大人びていたりしているきらいがありますし、人物の描き分けにやや物足りなさも残りますが、それでも最後に大きなメッセージを残して物語は締めくくられました。直木賞受賞作『何者』でも同じ手法を取っていましたが、文学的に美しく終わるのではなく、伝えたいこと、言いたいことは言葉にして、表現する、というところに作家としての潔さを感じました。小説のラストは難しく、かの重松清ですら「読者に投げっぱなし」状態で終わることが多々あります。その点、批判を覚悟でメッセージを残す朝井の姿勢には、素直に感服します。

「いじめられたら逃げればいい。笑われたら、笑わない人を探しに行けばいい。うまくいかないって思ったら、その相手がほんとうの家族だったとしても、離れればいい。そのとき誰かに、逃げたって笑われてもいいの。」 「逃げた先にも、同じだけの希望があるはずだもん」

逃げること、そのことが負けではない。 与えられているもの、そのことがすべてではない。

自分の道、輝ける場所は必ずどこかにある。 それを生む出会いも必ずどこかにある。

だから、生きることに希望を持たなければいけない。

そういうメッセージではないでしょうか。逃げ場を失い、自分の殻に閉じこもってしまう子どもたち。社会に出ても周囲に認められず、自己肯定感が低い若者たち。そんな人たちに幾分かの勇気を朝井は与えてくれることでしょう。

さんざん褒めまくりましたが、私自身は結構読むのに苦労した本でした(笑) 今回は、「入試に出そうな本」が一つのテーマですので、個人的なオススメ度はそこまで高くなかったりします。

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2013年10月の一冊『よろこびの歌』

2013.10.22

女子高校で合唱を通して描かれる「べたべた」ではない青春物語 / 国語科 中本先生

受験シーズンが近づいて参りました。台風は大きな爪痕を日本に残し、そしてまた季節は進みます。この時期になると、小6、中3の受験生は目の色を変え始め、季節よりも猛烈なスピードで人間的な成長を果たします。私がこうして教壇に立ち(すばるには無論教壇はありませんが)、小中学生に授業をさせていただいているのは、この成長を見るためだと毎年思わされます。そして、受験。合格、不合格―。もちろん結果は出ます。でも、その先の人生の中でもいっとう大切で輝かしく、素敵な時間を過ごす中学、高校での日々は結果に左右されるものではありません。与えられた場所で輝いて欲しい、そう願っておりますし、すばるの卒業生はみな素晴らしい輝きを放っています。前置きが長くなりました。今回ご紹介するのは、とある新設の私立の女子校(第二志望になることが多い学校)が舞台のおはなし。それぞれの事情を抱えて入学する生徒たちが、自分の輝きを求め、合唱活動に取り組みます。

『よろこびの歌』 宮下奈都 / おすすめ学年:小学5年生~中学3年生

著名なバイオリニストを母に持つ主人公、御木元玲は音楽学校受験に失敗して舞台の明泉女子高校に入学します。音楽から遠ざかり、学校生活にも無気力な彼女。独りで「冬を纏う」孤高の存在でしたが、校内の合唱イベントで指揮を任されます。自分が歌うことではなく、周りと歌を作り上げることで、再び自分の居場所を見出していくという章から小説はスタートします。

その後、玲の5人のクラスメイトにそれぞれ視点が切り替わり、連作短編という形でストーリーは展開します。玲の章では、「脇役」であったクラスメイトたちのそれぞれの物語が紡がれていきます。「脇役」も、その人の人生にとってみればもちろん主役です。作者の「脇役観」がきっちりと表現されています。冒頭の玲の章から5人のクラスメイトの章を経て最後の玲の章まで、約半年。章が変わるごとに時間が進行して、合唱コンクールでの惨憺たる出来から、少しずつ玲とクラスメイトの交感が行われ、クライマックスを迎えます。

作者、宮下奈都のうまいところはこの物語を「べたべた」にしないところです。単なる友情物語、成長物語で完結しません。余計なものを削ぎ落として、思春期の揺れ動く心、ある点では非常に薄っぺらく、ある面では濃厚な人間関係、そういったモノを見事に描出しています。読者の心にじわじわと攻め込んでくる書き方は秀逸です。
あと注目して欲しいのは、情景描写。作者の目を通した風景の描写は確かに情景描写ではあるのですが、繊細でそれでいてくどくない、スタイリッシュな情景が描き出されます。ともすれば、しつこくわざとらしくなってしまう情景描写。それも宮下の手にかかれば、物語にこれ以上ないくらい溶け込んだ場面の切り取りとなります。表情のある情景描写ができる稀有な作家です。近々直木賞も持っていくでしょう。

『終わらない歌』というザ・ブルーハーツのかの名曲がタイトルとなっている続編も発売されています。本作『よろこびの歌』もハイロウズの曲名です。作品のスタイルとはギャップのあるロックな好みですよね。二作ともかなりおすすめの作品です。

この時期に取り上げる作品は、ここ数年「入試に出る」予想の作品でした。一年間意識して読書を続けましたが、中学受験の出題候補として、今年はめぼしい作品はありませんでした。昨年ご紹介した『あと少し、もう少し』と『くちびるに歌を』が引き続き一押しです。ただ、今回ご紹介した『よろこびの歌』は、高校入試でこそ狙われる作品でしょう。「大人」の読み方ができれば、相当数の言葉が胸に響くはずです。 作中で引っかかった言葉があります。「ここを第一志望として入ってきた子がどれくらいいるだろう。口に出さないだけで、行きたい高校は他にあった子が多いはずだ。大事なのは、口に出さない、というところだ。あきらめてここに来たのだと感じさせない知恵だ。」第一志望に入れなかった子たちはきっとそう考えてしまうのでしょう。でも、冒頭にも記したように、与えられた場所で輝ける受験を応援しています。受験する学校はどの学校も素晴らしい学校であるとお勧めできるよう残り100日余、可能な限り情報を集めてこれからの進路指導にあたりたいと思っております。

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2013年5月の一冊『ツナグ』

2013.05.23

生者と死者の心をつなぐリアルな空想のお話

さて、五月です。眩いばかりの新緑と街並みを彩るツツジの花。鎌倉が一番美しく輝く季節がやってきました。卒業生たちは、すばるを羽ばたき、それぞれの道で新たな挑戦を始めているようです。晴れやかな気持ちと一抹の寂しさがありますが、今はfacebookやLINEで気軽に「繋がって」いられるようになりました。嬉々として近況を発信する卒業生たちを確認すると、寂しさも幾分か和らぐように思います。また、たくさんの生徒が真新しい制服に身を包み、すばるを訪れてくれています。学校生活について語るその顔つきはデジタルでは伝わらない魅力いっぱいの輝かしいものでした。いつまでもそうした「つながり」を大切にしていきたいです。さて、今回ご紹介するのは、直木賞を受賞した辻村深月『ツナグ』です。死者と生者を会わせることのできる存在「ツナグ」が、主人公です。

『ツナグ』  辻村深月 / おすすめ学年 小学6年生~中学3年生


死んだ人間と生きた人間を結びつけ、会わせることができる使者(ツナグ)。このツナグを介して、この世を去った人間とたった一度だけ会うことができます。一人の人間の一生でツナグを使えるのは一度だけ。その機会を誰に使うのか。また、死者も、ツナグを介して生きている人に会うことが出来ます。死者は受け身の立場(指名待ち)ですが、死んでから生きている人に会えるのはたったの一度だけ。その機会を誰に使うのか。
突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母にがん告知できなかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に悩まされる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員・・・といったように、登場人物が入れ替わり、連作短編の形で描かれるこの小説。設定だけ読むと、アニメや漫画の世界のようで、敬遠したくなるかもしれません。でも、そこにはこのあり得ない設定だからこそ表現できる、生と死の「リアル」が描かれています。

人の心の深い所にある「本心」。これを嫌味なく巧みに描出する辻村深月の筆致に注目です。辻村深月といえば、デビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を代表として、どの作品でもある種の「怖さ」が特徴でした。この『ツナグ』で描かれる「怖さ」は、文庫版解説にもありましたが、やはり喪失感のように思います。たった一日会うだけで埋められるはずがない、大きな「命」というものの喪失感。一対一に近い本当にミクロなドラマですが、その世界観は無限の広がりを生んでいます。

やはり考えてしいます。自分ならこの「ツナグ」機会をいつに使うのか。妻なのか、息子なのか、それとも両親なのか。一人しか会えない。希望でもあり、後悔をも生みかねないこのシステム。一番会いたい人は誰か。読みながら、登場人物に感情移入しながら、自分を省みていました。きっと多くの読者がそうなることでしょう。この小説のすばらしさについて、ここで何を述べても始まりません。多くを語る必要はありません。読めば、読んでこそこの本の価値が分かります。新境地に突入した辻村深月の新たな代表作を是非ご一読ください。と、宣伝をして、この素晴らしい小説を書いてくれた作者に対しての感謝を「ツナグ」こととしたいと思います。

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2012年12月の一冊『あと少し、もう少し』

2012.12.01

十五歳の自分自身のすべてをかけて走り心のたすきをつなぐお話

どうしてかは分かりませんが、すばるには陸上部の生徒が多く在籍しています。それも長距離ランナーが多く、11月に七里ガ浜を駆け抜ける鎌倉市駅伝大会へ応援に行くのは、毎年の楽しみです。(今年は塾の仕事の都合で行けませんでしたが…)
中学生が己の青春の日々をかけて、普段教室で見せているのとは、また一味も二味も違う真剣な形相で走る姿には心を揺さぶられます。そんな生徒の姿と重ね合せて読んだこの小説は素晴らしく、最初の50ページで私の頬は既に濡れていました。
瀬尾まいこが書いた中学生の駅伝小説ということで、読む前から期待値は相当高かったわけですが、それを裏切らない2012年の最後にご紹介するにふさわしい小説です。

『あと少し、もう少し』  瀬尾まいこ / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生


舞台はやや田舎の中学校。その陸上部の駅伝チームのお話。強豪とは言えませんが、毎年駅伝では県大会に出場していたレベルのチーム。しかし、これまでこのチームを引っ張ってきた鬼のような神のような顧問の先生が転任し、陸上の素人同然の先生が顧問となります。部長の桝井は、先生に気を遣い、チームを結成するために他の部活動からもメンバーを集め、何とか県大会の出場を果たそうと、陸上以外でも奔走します。本業以外での頑張りが仇となり、自身のタイムが伸び悩みます。
それでも、メンバーは桝井の頑張りに応えるべく、自分とも闘いながら、走り、そして襷をつないでいきます。

この小説のすごいところは、その構成です。主人公不在の書き方とでもいいましょうか。第一章は一区を走る設楽。第二章は二区を走る太田。といった具合で、各章がそのまま区間に割り当てられていて、すべて別の一人称で進みます。駅伝の襷とともに、一人一人の物語のたすきが渡されていく形で、ストーリーは進行します。区間を走る一人一人が主人公になれるこの書き方には、舌を巻きました。
一人一人のメンバーの個性が滲み出ていて、たすきが渡されるたびに、その想いがつながれていく展開は「絆」そのものでした。

一区を走る冴えない、いじめられっ子キャラ、設楽のセリフに早くも涙腺がゆるみます。
「がんばれという言葉が僕にはよくひびく。ありきたりの言葉がありがたいということを僕はここにいる誰よりもしっている。いじめられっ子だった僕を、ここまでみちびいてくれたのはこの言葉だ」
がんばれという言葉が嫌い、という人がいます。頑張れと言われても何を頑張ればいいか分からない。よく聞きます。そうなのでしょうか。そういう君こそそんなに「我(が)を張らなくて」いいじゃないか、と言いたくなります。応援なんです、その人のことを想って言った言葉は、どんな言葉でも力を持っているはずです。たとえ相手に届かなくても、その言葉に想いを込めて発すれば、必ずや意味があると思います。だから、私はいつも想いを込めて生徒に伝えます。「がんばれ」と。言葉を受け止めるのではなく、言葉に込められた想いを受け止めてほしい、そう願いながら。

ラストがやや淡泊ではありますが、それがこの作品の価値を落とすことにはなりません。駅伝スタイルのこの小説は一人にスポットが当たりすぎてもいけないのだと思います。それは、ラストを走る、部長でリーダーの桝井の章も然りです。「最後は感動的に…」としたいところですが、他のメンバーと同じウェイトで、淡々と描いたことに瀬尾まいこの配慮を感じました。

駅伝好き、青春小説好きは必読です。新たな名作の誕生です。同じく駅伝小説の名作といえば、今年『舟を編む』で本屋大賞を受賞した三浦しをん『風が強く吹いている』がありますが、それに勝るとも劣らない作品でした。

2012年皆様にとってどのような年だったでしょうか。すばるの1年は2月の受験が終わるまでは終わりません。これからのラストスパートに全力投球したいと思います。
今年もたくさんの別れと出会いがありました。生徒は、「別れ」のその時に一番輝いていて、その輝きはまた新たな出会いへのモチベーションを高めてくれます。生徒と過ごすその一日一日を大切に、それを次へとつないでいければ、きっとそれはお互いにとって幸せで、素敵なことでしょう。たくさんの素敵な出会いと別れをすばるではお待ちしております。

皆様が、今年一年間つないで来た「たすき」を来年に良い形で渡せますように、そう願っております。本年もすばるのホームページをご覧いただきありがとうございました。良いお年をお迎えください。

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2012年11月の一冊『くちびるに歌を』

2012.11.01

「心を一つに」十五歳の繊細な心の揺れを歌声に込めて描いたお話

すばるにも多く通っている横浜国大附属鎌倉中学校では、NHK合唱コンクール(通称Nコン)での入賞を目指して中学三年生有志で合唱団を結成し、春から夏、秋にかけて猛練習を行います。塾としては、「受験生の大変な時期に…」という思いはありますが、生徒の青春を可能な限り応援したいと考えています。もちろん、宿題忘れや勉強不足の時に「Nコンが忙しくて…」という言い訳は許しません(笑)。
そんな附属鎌倉中のNコンメンバーが今年8年ぶりに全国大会に出場し、何と金賞を取ってきました!(拍手) 塾生も四人ほど参加しており、鼻が高いです。ここのところ低迷していた附属のNコンですが、快挙を達成してくれました。
さて、そんなわけで、今回久しぶりにこのコーナーで紹介する小説「くちびるに歌を」は、中田永一の秀作で、そのNコンを目指す中学生の物語です。

『くちびるに歌を』  中田永一 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生


長崎県五島列島のとある中学校での合唱部。これまで顧問をしていた先生が産休に入り、変わりに臨時として、柏木先生が合唱部を指導していくことになります。柏木先生は、音楽のプロともいえる存在ですが、教師としては未知数です。いままで女子生徒しかいなかった合唱部でしたが、柏木先生の美しさに魅せられ男子生徒が多数入部します。

これまでは女子だけでやってきた合唱部にさざ波が立ち、挙句の果てにNコンへは、柏木先生の独断で混声でのエントリーとなります。そのコンサートでは、アンジェラアキ「手紙~拝啓 十五の君へ~」が課題曲として指定されます。この歌自体も素晴らしい歌ですし、泣くための準備は整ったな、と前半部分で思わされました。部員たちは柏木先生から実際に十五年後の自分へ向けて、手紙を出すように、との課題を出されます。繊細で複雑な中学生の「いま」と、十五年後の自分に対する思いを抱えながら合唱部の活動は続いていきます。

コンクールでの結果云々、よりも、人物の心にスポットを当てた中田永一こと乙一の描写に注目です。中田永一と言えば、名作「百瀬、こっちを向いて」ですが、今作でも「冴えない主人公」が健在です。多くの小説で、主人公は艱難辛苦を乗り越える英雄であったり、どこか影を持った魅力のある存在だったりしますが、この主人公は「冴えない」。残念ながらいい感じで冴えていません。その冴えない主人公で物語を引っ張ることに作者の力を感じます。

ただ、「百瀬、こっちを向いて」が秀逸な短編だったのに対して、中編小説という位置づけになる本作は、やや中だるみを感じました。それでも、ラストに向けての盛り上がりは良く、最後は期待を裏切らない終わり方です。「心を一つに」ベタな標語や掛け声は冷笑されてしまう昨今ですが、それは心を一つにすることの喜びを大人たちが与えられていないからではないでしょうか。合唱は、紛れもなくその体験をさせてあげられる稀有な集団行動です。附属中を筆頭に、鎌倉全体で合唱への取り組みがもっと高まればいいな、と思っております。

この時期に本作を紹介をしたのは、2013年度の中学入試で狙われそうな小説だったからです。昨年のこの時期にも、小路幸也の『空に向かう花』をご紹介しましたが、実際に出題されました。今年の一本勝負はこちらで行きたいと思います。

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2012年4月の一冊『幸福な食卓』

2012.04.01

「出会い」と「別れ」と「大切なもの」のお話

受験シーズンと新入生をお迎えするシーズンがようやく一段落しました。別れの季節である春。今年はいつもに増して寂しく、でも新たな出会いがその寂しさを少しだけ和らげてくれました。
卒業生が真新しい制服に身を包み、塾を訪れてくれることや新入生たちの溌剌とした笑顔が嬉しい最近です。今日紹介する本は、出会いと別れ、そしてそれを超えて「変わらない大切なもの」がテーマの小説です。
年一回しか更新されないダメなコーナーですが、楽しみにしていただいている方もいるようなので、今年度はもっと頑張ります!

『幸福な食卓』  瀬尾まいこ / おすすめ学年 小学6年生~中学3年生

瀬尾まいこの本はいつも温かさに包まれています。自分の「読みたい本リスト」にずっと書かれていましたが、読む機会のなかったこの本。読み終わった時に震えが来ました。
「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」そんな衝撃的な一文で始まるこの小説。家族の描き方が秀逸で、主人公佐和子を包む兄、父、母はそれぞれ個性的ですが、発する言葉の端々に思いやりと優しさを感じます。お気に入りは兄の「直ちゃん」。天才児が上手く生きられなくなってしまった苦悩が、鮮やかな筆致で読者にビシビシと伝わってきます。一人ひとりの登場人物の会話における言葉のセレクトが素晴らしく、これが瀬尾まいこのセンスなのでしょう。物語はゆっくりとほっこりと進み、このまま終わるだろうと思っていたところで、まさかの展開に。 終盤の佐和子のたたみかけるような心情描写の巧みさに胸を打たれました。瀬尾まいこは中学の国語教師ですが、完全なる敗北感を感じました。小説の持つ力、言葉が持つ力を再認識させられた、そんな本です。

毎朝喫茶店で本を読んでいるわけですが、朝から喫茶店で目頭をハンカチで押える30歳の姿は、さぞおかしく映ったでしょうが、溢れる涙を止められませんでした。読み終わって外に出たとき、鎌倉の空は青く美しかったですが、それすらも当たり前に感じられるほど心は澄んでいました。
掛け値なしのおすすめです。生徒には、この本のすばらしさが分かるような子どもとなってほしいですし、保護者の皆様にも是非読んでいただきたいと思います。

北乃きい主演で映画にもなっています。こちらもおすすめです。この映画のためにMr.Childrenは「くるみ」をアレンジし直して、それが主題歌となっています。ミスチルは大好きですが、この本を読んでから「くるみ-for the film-幸福な食卓」を聞くと彼らの偉大さを痛感し、また涙が止まらなくなります。

すばる図書

2011年11月の一冊『空へ向かう花』

2011.11.01

罪を背負った子どもとそれを囲む人々の暗く温かいお話

大変にご無沙汰してます。 約一年ぶりの更新ですね。子どもたちとその周りにいる大人たちに是非とも読んでいただきたい本に出会いましたので、ご紹介いたします。
著者は小路幸也。「東京バンドワゴン」シリーズで有名ですが、恥ずかしながら著者の本を初めて読みました。登場人物の描き方、心情の描写、物語の進め方など、細かい所に気が遣われていて、ストレートでありながら深く、重くなりがちなところを温かく、心に響く小説でした。

『空へ向かう花』  小路幸也 / おすすめ学年 小学6年生~中学3年生

《大人の意地を見せてやるって思った。大人ってすごいんだって、子供のためにこんなことをしてくれるんだって思わせてやる。二人が大人になりたいって思ってくれるように。》

お気に入りの一節です。
ビルの屋上から小学六年生の少年が飛び降り自殺をしようとする場面から物語は始まります。それを阻止しようとする同じく小学六年生の少女。この少女も辛い過去を背負っています。困難の中で生きる道を模索する二人は、奇縁で結ばれており、その周りを囲む大人たちが、二人を見守り、力になる。主な登場人物は四人。この少なさが、この小説の良さを引きだしています。魅力ある四人の登場人物が視点を変えながら、重いテーマに立ち向かっていく様子に引き込まれました。
生きること、罪や悲しみや苦しみを抱えながら、それでも生きること。そのために必要なことは何かを教えてくれる小説です。保護者の皆様方にぜひ読んでいただきたい本です。

いよいよ受験シーズンが近づいてまいりました。今年はどんな作品が出題されるかも気になります。定番の重松清(「くちぶえ番長」「きみの友だち」)、対抗の椰月美智子(「しずかな日々」「十二歳」)、出題数急上昇中の森浩美(「夏を拾いに」「こちらの事情」)、大穴の宮下奈都(「よろこびの歌」「スコーレNo4」)、 根強い人気の川端裕人(「今ここにいるぼくらは」)など、幅広い作家・作品から出題されます。ただし、中学受験の国語では、間接的な心情描写を如何に読みとるかが大事で、間接表現の巧みな作家が取り上げられているということは間違いありません。小学生の国語力を試すという点では、個人的には重松清や椰月美智子、佐藤多佳子など直球勝負の作家を出題してほしいですね。
でも、今回紹介した「空へ向かう花」。必ずどこかの学校で出題されます。(自信アリ)

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2011年1月の一冊『武士道シックスティーン』

2011.01.23

二人の主人公(女の子)が「心」と「技」を磨く剣道小説

一月も終わりにさしかかり、受験直前の緊張感が塾には漂っております。受験にも正面からぶつかり、自分の力を最大限発揮していただきたいものです。仁義を以て尊しとなす。卑劣な行為をせずに日本人の「武士道」精神を。今の時期にぴったりの小説をご紹介します。
今回ご紹介するのは『武士道シックスティーン』剣道小説です。前回はボクシングで今回は剣道か、という感じですが、スポーツ小説は読書の入り口としては最適だと思います。

『武士道シックスティーン』 誉田哲也 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

同い年の二人の視点が入れ替わりながら物語は進行します。幼い頃から強くなるためだけ、人を斬ることだけを目的に剣道をやってきた香織と、小学校で日本舞踊を経験し、中学から剣道を始めた早苗は同じ高校の剣道部に所属することとなります。香織の勝負へのこだわり方が非常に極端で面白く、また早苗の天然ぶりも微笑ましいものです。

とある因縁で結ばれた二人。二人の性格は180度違い、衝突し、それでもなかなか考えを曲げない頑固な二人。物語が進むにつれて、お互いが精神面、剣道の技術面で、少しずつ成長し、視野を広げていく様子が丁寧かつリズミカルに描かれます。

登場人物は個性豊かでありながら、それぞれに感情移入できる素敵な人物ばかりです。このシリーズ『武士道セブンティーン』『エイティーン』と続いていくのも納得です。シリーズものとして続きも楽しみな物語。女の子が主人公のスポーツ小説は珍しいですが、まさに「武士道」を感じさせるロックな小説でした。

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2010年4月の一冊『ボックス!』

2010.04.01

“努力の秀才”と”センスの野生児”の二人が織りなす感動と興奮のボクシング小説

四月も終わりにさしかかり、2010年初のおすすめです。今年もたくさんの新入生に入塾いただきました。読書離れ、ゆとり教育による学力低下などが叫ばれておりますが、現場の実感としては、読書に関しては、学校による朝読(朝の10分間読書)の効果からか、ご家庭の取り組みの成果か、少しずつ本を読む子どもが増えているように感じております。
今回紹介させていただくのは、Rookiesでお馴染み市原隼人が主演で映画化が決まりました『ボックス!』です。ボクシング小説ということで、「そんな野蛮な・・・」とお思いかもしれません。ただし、リアルを幻想的に、混沌をやさしく、暑苦しさを涼しく描くことに定評がある百田尚樹によって、非常に爽やかに書かれています。

『ボックス!』  百田尚樹 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

主人公の優紀は、勉強面で努力をいとわず、非常に優秀。私立高校の特進クラスに在籍しています。ただ、ありがちなひ弱で勇気がなく運動神経がないタイプ。一方優紀の幼なじみの鏑矢(かぶらや)はやんちゃで勉強もできず、ボクシングとけんかの強さだけが自慢で、私立高校にはスポーツ推薦で進学してきました。偶然同じ学校に進むことになった二人。この二人を中心に物語は進行していきます。
ある事件をきっかけに優紀はボクシングの道を歩み始めます。同じ学校のボクシング部には「天才」と呼ばれる親友の鏑矢がいます。最初は何も出来ない優紀ですが、努力という才能を武器に、徐々に力をつけていきます。周囲も驚く成長を遂げた優紀と鏑矢はいつしかライバルに。成長と挫折を繊細かつ大胆に、爽やかでありながら熱く感動的に描き出したスポーツ小説。最後に勝つのは誰か?読み始めたら止まらない。一気に読み切れる小説です。

これを読んだら、中学生は高校に入ったらボクシングをやりたくなるかも?と思えるくらいボクシングの魅力も、努力することの大切さも詰まった小説でした。春から初夏に。爽やかな季節だからこそ読んで欲しい一冊です。格闘技好きのお子さんは是非。ボクシングに抵抗がある方にも是非ご一読下さい。少し見方が変わるかもしれません。

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2009年12月の一冊『十二歳』

2009.12.01

小学六年生の女の子の日常を等身大の目線で描いた物語

歳も暮れて参りまして、早十二月。今年は結局三冊しかご紹介できませんでした。(汗)
来年は倍増目指してがんばります。高校受験生は志望校を決定する時期にさしかかり、中学受験生は残り二ヶ月の追い込みが始まりました。師走の名の通り、走り回っている日々です。
さて、今回ご紹介いたしますのは、椰月美智子『十二歳』です。誰?という感じでしょうか。中学受験でおなじみの作家さんと言えば、重松清ですが、それに続く作家さんになるのではないかと私が密かに注目している一人です。

『十二歳』 椰月美智子 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

十二歳といえば、小学校六年生から中学校一年生へと階段を駆け上がる年齢です。心身ともに大きく変貌を遂げるこの時期。考えていること、感じていること、体験すること。大人になってしまった今、いつしか美化されてしまったあの頃のみずみずしい日々を、小学校六年生の等身大の目線で書き上げた作品を見つけました。この作品は椰月さんのデビュー作ということで、荒さも目立ちますが、デビュー作ならではの、気持ちのこもった作品です。
主人公鈴木さえはポートボールが大好きな小学六年生。(ポートボールという響きすら懐かしすぎますが)友達と仲良くなったり、少し離れたり、ほのかな恋をしたり、友達の恋を応援したり。この物語の中で特別な出来事は起きません。小学六年生の日常が、小学生特有の盛り上がりを見せながら、不安定に進んでいきます。椰月さんが描きたかったのはきっとこの「不安定さ」なんでしょう。そして、さえは小学校を「卒業」します。その先も、さえが抱える悩みや、不安は変わりません。でも、さえは間違いなく「卒業」したのです。
人は生きていく中で、たくさんの卒業を繰り返しますが、すべての卒業はスタートラインでしかない。それを改めて感じさせてくれるそんな作品でした。

小学校高学年~中学生の女の子に是非読んでもらいたい作品でもあります。共感しながら読み進めて行くうちに、いつの間にか残りのページ数は少なくなっているはずです。
小学生の女の子が何を考えているか分からない、理解が出来ないというお母様、お父様。ご一読をおすすめいたします。思っているよりも大人で、また想像以上に幼い「十二歳」の姿をそこに発見できることでしょう。

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2009年9月の一冊『ステップファザー・ステップ』

2009.09.01

双子の継父となった泥棒のあったか~い話

またも更新が滞っておりましたが、久々にご紹介いたします。
今回ご紹介するのは宮部みゆきの『ステップファザー・ステップ』です。宮部みゆきといえば、『模倣犯』や『理由』などのミステリー小説が有名ですが、本作は小中学生でも入り込みやすい舞台背景と、何より魅力的な三人の登場人物の物語です。

『ステップファザー・ステップ』 宮部みゆき / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

両親がわけありで、同時に家を出てしまい、親不在の状況におかれた中学生の双子の男の子たち。事もあろうに雷の夜に双子の家の隣に空き巣に入ろうとした泥棒。残念ながら、雷に見舞われ、空き巣未遂に終わったところを双子に助けられます。双子は屈託のない笑顔を浮かべながら、ある条件をつきつけます。「僕ら指紋とっちゃった」「僕ら、二人の面倒を見ない?」「おとうさん!?」泥棒であることを黙っている代わりに、泥棒に父親代わりになることを求めます。「ステップファザー」とは継父のこと。
双子と主人公の泥棒のやり取りが面白く、つい引き込まれます。些細な事件から、大きな出来事が三人の周りで巻き起こり、それらを通して泥棒である「おとうさん」と「双子たち」が少しずつ絆を強めていく様子に、心をつかまれました。

いつか帰ってくるであろう本当の両親に気兼ねし、無邪気に慕ってくる「息子たち」との距離を置こうと思いながらも、「おとうさん」は、双子との生活にいつしかどっぷり浸かっていく主人公。

明るく軽い文体で、文庫本の表紙も『火車』や『模倣犯』のようなどす黒い色ではなく、内容に合わせて軽いものになっています。小中学生にも、お母様方にも読んでいただきたいお話です。受験も近づいてきて、空気が張り詰めてきた家庭にもこの一冊。心を温めましょう(笑)

すばる図書

2009年6月の一冊『陽気なギャングが地球を回す』

2009.06.01

「正義」のギャング達の痛快小説 伊坂幸太郎入門書

受験期からいろいろな事情で忙殺されておりまして、久々の更新です。
読書家の生徒が増えてきて、手ごたえを感じている今日この頃です。
今回は、活字離れが叫ばれる世の中に一石を投じられる可能性を秘めた小説家、伊坂幸太郎の作品をご紹介いたします。軽妙洒脱なセリフ、言葉のセンス、散りばめられた伏線、秘められた皮肉にも似たメッセージと、読めば読むほど味が出る伊坂幸太郎。小学生には少し難しく今ひとつオススメは出来ませんが、読書に慣れ始めた中学生には是非読んで欲しいと思います。

『陽気なギャングが地球を回す』  伊坂幸太郎 / おすすめ学年 中学1年生~中学3年生

<文庫本の裏表紙から> 嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった……はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ!奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス!


読み終わった瞬間に面白い!と叫びたくなり、他の人にも紹介したくなる小説は数多くはありませんが、この小説は文句なしといったところでしょう。 銀行強盗であるにも関わらず、その行為を肯定したくなるようなそんな存在のキャラクターたち。テンポが良く、読み始めると最後まで「一気」と言った感じです。伊坂作品はそういった意味では麻薬ですね。
この「陽気なギャング~」は、実は、途中で何となく筋がわかってしまったわけですが、それでも読んだあとにすごくおもしろかった!と思えました。読者の知的好奇心を満足させつつ、部分的にそれを裏切り、最後には「やられた」と思う、そんな作品を書ける伊坂幸太郎は紛れもない天才です。

『陽気なギャングが地球を回す』は映画化もされており、こちらも非常に楽しめます。小説が映画化されるとがっかりすることが多いのですが、本書に関しては小説・映画二つ合わせて一つの作品と思わせてくれる出来でした。

伊坂ワールドへの第一歩として、太鼓判です。中毒症状にはくれぐれもお気をつけください。

すばる図書

2008年12月の一冊『しゃべれどもしゃべれども』

2008.12.01

落語を通して自信をつける五人の心温まる物語

今月の一冊も第4回。
ネタ不足になっているわけではありませんが、再び佐藤多佳子の小説の紹介です。私自身が冬に読んだこともあり、何となく冬に読むと心があたたまるかな、と思い、ご紹介させていただきます。「落語」というテーマに抵抗をもっていても、すんなり入れます。保証します。

『しゃべれどもしゃべれども』 佐藤多佳子 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

落語家の今昔亭三つ葉は、頑固で短気。型にこだわり、今ひとつ落語家として大成しない、主人公です。それにひょんなことから吃音の良、人前で素直になれない十河、関西弁の村林少年、口下手な解説者で元プロ野球選手の湯河原に落語を教えることとなります。
落語を教える中で、徐々に生徒たちの生活にも踏み込んでいく三つ葉。おせっかいが実って、それぞれの道を前へ進み始めます。

さて、佐藤多佳子は「一瞬の風になれ」でお馴染みの作者です。「一瞬の風になれ」を読んだ方は続けてこちらもどうぞ。本書はタイトルに惹かれて手にとって見たのがきっかけです。内容が落語ということもあり、テンポが良く、平易な文章の中にユーモアが溢れています。にやけながら、読み進めることができました。作品自体が一つの落語的面白さを持っています。そして、ラストへ向けて盛り上がります。最後の発表会まで一気に読みきることができました。いいセリフもたくさん散りばめられています。

「普通の子なんていやしませんよ。みんな独特です。大人が勝手に普通なんて枠をはめて安心するだけです」

自信を失いつつある三つ葉は考えます。
「自信って、いったいなんだろうな。自分の能力が評価される、自分の人柄が愛される、自分の立場が誇れる―そういうことだが、それより、何より、肝心なのは、自分で自分を”良し”と納得することかもしれない。”良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、”良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。だが、そんなに適量に配合された人間がいるわけがなく、たいていはうぬぼれたり、いじけたり、ぎくしゃくとみっともなく日々を生きている。」
「自分が大事だと思っているものから逃げると、絶対に後悔する」

十河のお茶の先生の言葉。
「一期一会というんだよ」
「お茶の心だよ。同じお茶会というのは決してない、どの会も生涯にただ一度限りだという心得さ。その年、季節、天候、顔ぶれ、それぞれの心模様、何もかもが違うんだよ。だからこそ、毎度毎度面倒な手順を踏んで同じことを繰り返し稽古するんだよ。ただ一度きりの、その場に臨むためにね」

ラストのおきまりのシーンはいらないような気もしますが。。。村林の落語の披露が終わった時点で、小説を終結させてよかったような気がします。

ほんのり温かく、でも、コテコテしていません。気分が少し暗い時、落ち込んでいるときに読むといいかもしれません。おすすめです。

すばる図書

2008年11月の一冊『上と外』

2008.11.01

不思議な冒険体験を通して描かれる兄妹の絆

今月の一冊も第3回となりました。
今のところは順調に来ております。生徒さんからのブックレビューもいただいております。
第3回の作品は、授業で紹介したこともあり、小6、中2の多くの生徒が「ハマった」恩田陸の小説です。
恩田陸は他にも有名な「夜のピクニック」や「六番目の小夜子」など小中学生でも読みやすい小説が多数あります。また機を見てご紹介させていただければと思います。

『上と外』 恩田陸 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

恩田陸の「リアル」なSFがここでも展開されます。「んーないんだろうな、でもありえなくはないな」レベルのファンタジーです。この「上と外」は大人でも読める冒険小説とでも言っておきましょう。大人は概して冒険しないものです。懐かしき冒険の世界へのいざないです。もちろん、小中学生なら、抵抗なく入り込めるでしょう。

物語の中心は楢崎一家、異母兄弟の練と千華子。二人の父親の賢。千華子の母親で練を育てた千鶴子。この四人の視点がかわるがわる物語は進みます。賢が住む南米のG国に3人が夏休みに遊びに行きます。序盤の設定の説明は少し長いですが、物語は予想だにしない展開に。

父母とはぐれた練と千華子がジャングルで一瞬一瞬を生き抜く感じが良く、心理状態の描写も巧みです。不思議な体験を通して、練と千華子の二人の絆の深まりが描かれていきます。二人が見つけた謎の遺跡。このあたりから一気に盛り上がります。

スピード感があり、次を期待させる書き方。四人の視点が次々に変わっていき、もったいぶられます。早く次が読みたいと思わせてくれます。先が読めない展開の連続で、物語は徐々に終末に向かいます。

いろいろとツッコミどころも満載の小説ですが、、、総じて、面白いと断言できます。以下、お気に入りの表現を抜粋しておきます。物語の内容とは関係ない言葉なので、ネタばれにはなりません。


「後悔っていうのはこの世で一番くだらないもんの一つだ。何も生み出さないし一銭にもなりゃしない。胸糞悪くなるだけだ。成功も失敗も一つの過程、一つの結果に過ぎないんだよ。そこでおしまいじゃない。長い長い流れの途中なんだ。(中略)人生は、何もしないでいるには長いが、何かをやりとげえるには短い」

「そう、感情はいつもあとからついてくる。実際に何かが起きているとき、何かが動いているときには、感情は湧いてこない。足を止めた時、動きが静止した時、ようやく自分にも感情があったことを思い出す。そして、自分が本当はどういう気持ちだったのかを確認できるのは更にもっとあとになってからなのだ。」

「いつだって甘えるのは大人の方だ。大人にはいろいろと逃げる場所があるが、子どもたちにはどこにも逃げる場所はない。自分たちが甘えても、子どもたちが逃げ出せないことを親はよく分かっている。ねえ許してね、分かってねと言えば子どもたちは頷いてくれる。子どもたちは自分がここにしか居場所がないことを知っているからだ。頷くことで、自分たちが大人の庇護を受けられることを承知しているからだ。」

「親は子どもにいつも嘘ばかりついている。また今度ね。そのうちね。そう言っていつも答を先送りにしている。」

最後の二つはお父様、お母様方は耳が痛いですか?(笑)失礼しました。


小6グリーンクラス 多田さんより

主人公の練は中学生の男の子。練は生まれて間もなく実母を亡くし、練の実父、賢はその後大学の後輩の千鶴子と再婚し、妹の千華子が産まれる。しかし、練が小学校に上がる頃、練の父、賢は千鶴子と離婚。練は父方の祖父母に預けられる。 複雑な家族関係の紹介で物語はスタートするが、この物語には暗さが感じられない。豪快な父に、美人で快活な千鶴子と千華子という設定のもと、テンポ良く話が進んでいく。 離婚し、はなればなれになったこの四人は夏休みに考古学者の賢のいる中米のG国で会うことになった。
しかし、そこでなんと四人はクーデターに巻き込まれるのである。ヘリコプターから練と千華子は森へ落下し、父母とはぐれてしまう。 熱帯雨林に放り出された二人はジャングルの中を助けを求めてさまよう。危険な迷走の中、千華子が高熱を出し途方に暮れる。

そんな二人の前に、ナゾの美少年があらわれる。
そして二人は――。

短文が多く、スピード感があり、ハラハラドキドキ。長編だが引きこまれる本である。

すばる図書

2008年10月の一冊『一瞬の風になれ』

2008.10.01

小説全体を駆け抜けるスピード感が何よりの魅力

本屋大賞という賞がありまして、この賞はよくよく本を読んでいらっしゃる書店員の方々が選んだ賞ということで、芥川賞や直木賞といった選考基準が今ひとつ不明確な賞と違い、単純に「面白い!」と思える小説がこれまでは選ばれております。

第一回が小川洋子『博士の愛した数式』、第二回が恩田陸『夜のピクニック』となっており、いずれも設定が面白く、読み進む楽しみが味わえる名作です。また本屋大賞→映画化という流れもあるらしく、二作品ともヒット映画となっているようです。

そんな中、第三回の本屋大賞に選ばれたのが、この「一瞬の風になれ」です。ちなみに第四回は伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」。こちらは、それまでの「青春感動小説」路線からは少し外れております。
もちろん、とっても面白いですが。

余談が長くなりました。 紹介文に移ります。

『一瞬の風になれ』 佐藤多佳子 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

一瞬の風。そのタイトル通りにストーリーは展開します。憧れの兄を持つ高校生新二が、それまでやっていたサッカーと決別し、陸上に目覚め、親友の連と共に風を紡ぎます。 連は天才肌で練習嫌い。人にちやほやされるのも嫌いで、でもスター。どこの部活にもこういう人がいるもんです。それに引き換え新二は、高校から陸上を始め、選手としてまったく未知数。ただ、足は速い。連ほどではないけれども、速い。

新二が成長していく過程がさわやかな追い風に吹かれるように描かれます。個性的ではありますが、どこにでもいそうな登場人物。でも、だからこそそれぞれの登場人物に感情移入しながら読み進めることが出来ます。陸上小説」という新たなジャンルでの新鮮味も感じられ、小説全体を駆け抜けるスピード感が何よりの魅力です。

残り20ページ、残り10ページ・・・ページをめくるのが、惜しい!久しぶりにそう思わせてくれる小説に出会ったような気がします。

すばる図書

2008年09月の一冊『 モモ』

2008.09.01

ゆとりとは何か、もう一度考えさせてくれる一冊

栄えある「今月の一冊」第一回です。
どれで行こうか、とても迷いましたが、私の小中学校時代を支えたこの一冊。
ミヒャエル・エンデの『モモ』をご紹介いたします。
どう支えたかと言うと、、、読書感想文で何回も賞をいただきました(笑)

『モモ』 ミヒャエル・エンデ / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

円形劇場の廃墟に住みついた、もじゃもじゃ頭で粗末な身なりをした不思議な女の子モモ。モモには特技がありました。黙って話を聞くだけで、人々は心を開き、悩みが嘘のように消えていきます。

モモののまわりには、いつもたくさんの大人や子どもたちが集まっていました。 しかし「時間」を人間に節約させることにより、世界中の余分な「時間」を独占しようとする「灰色の男たち」が出現します。町中の人々はちょっとしたおしゃべりや、ゆとりのある時間を倹約し、次第に灰色の男たちに預けるようになってしまいます。

モモの周りは急に時間が早く流れ始め、あくせくした人々の姿が街には溢れかえります。 時間どろぼうである「灰色の男たち」と、みんなのゆとりを取り戻そうとするモモの対決が描かれています。

登場人物は誰もがきらめく素敵な個性を持っています。スリルあふれる展開を通して、「時間」に追われる現代社会への警鐘を鳴らし、また「ゆとり」とは何かについて考えさせてくれる作品です。学校に、塾に、習い事に、部活動に。日々を何かに追われて過ごしている皆さんに、ゆっくりと「時間」について考えるゆとりを与えてくれるでしょう。

読書感想文にもおすすめです。(言うのがちょっと遅い・・・)