2008年10月の一冊『一瞬の風になれ』

小説全体を駆け抜けるスピード感が何よりの魅力

本屋大賞という賞がありまして、この賞はよくよく本を読んでいらっしゃる書店員の方々が選んだ賞ということで、芥川賞や直木賞といった選考基準が今ひとつ不明確な賞と違い、単純に「面白い!」と思える小説がこれまでは選ばれております。

第一回が小川洋子『博士の愛した数式』、第二回が恩田陸『夜のピクニック』となっており、いずれも設定が面白く、読み進む楽しみが味わえる名作です。また本屋大賞→映画化という流れもあるらしく、二作品ともヒット映画となっているようです。

そんな中、第三回の本屋大賞に選ばれたのが、この「一瞬の風になれ」です。ちなみに第四回は伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」。こちらは、それまでの「青春感動小説」路線からは少し外れております。
もちろん、とっても面白いですが。

余談が長くなりました。 紹介文に移ります。

『一瞬の風になれ』 佐藤多佳子 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

一瞬の風。そのタイトル通りにストーリーは展開します。憧れの兄を持つ高校生新二が、それまでやっていたサッカーと決別し、陸上に目覚め、親友の連と共に風を紡ぎます。 連は天才肌で練習嫌い。人にちやほやされるのも嫌いで、でもスター。どこの部活にもこういう人がいるもんです。それに引き換え新二は、高校から陸上を始め、選手としてまったく未知数。ただ、足は速い。連ほどではないけれども、速い。

新二が成長していく過程がさわやかな追い風に吹かれるように描かれます。個性的ではありますが、どこにでもいそうな登場人物。でも、だからこそそれぞれの登場人物に感情移入しながら読み進めることが出来ます。陸上小説」という新たなジャンルでの新鮮味も感じられ、小説全体を駆け抜けるスピード感が何よりの魅力です。

残り20ページ、残り10ページ・・・ページをめくるのが、惜しい!久しぶりにそう思わせてくれる小説に出会ったような気がします。

2008年09月の一冊『 モモ』

ゆとりとは何か、もう一度考えさせてくれる一冊

栄えある「今月の一冊」第一回です。
どれで行こうか、とても迷いましたが、私の小中学校時代を支えたこの一冊。
ミヒャエル・エンデの『モモ』をご紹介いたします。
どう支えたかと言うと、、、読書感想文で何回も賞をいただきました(笑)

『モモ』 ミヒャエル・エンデ / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

円形劇場の廃墟に住みついた、もじゃもじゃ頭で粗末な身なりをした不思議な女の子モモ。モモには特技がありました。黙って話を聞くだけで、人々は心を開き、悩みが嘘のように消えていきます。

モモののまわりには、いつもたくさんの大人や子どもたちが集まっていました。 しかし「時間」を人間に節約させることにより、世界中の余分な「時間」を独占しようとする「灰色の男たち」が出現します。町中の人々はちょっとしたおしゃべりや、ゆとりのある時間を倹約し、次第に灰色の男たちに預けるようになってしまいます。

モモの周りは急に時間が早く流れ始め、あくせくした人々の姿が街には溢れかえります。 時間どろぼうである「灰色の男たち」と、みんなのゆとりを取り戻そうとするモモの対決が描かれています。

登場人物は誰もがきらめく素敵な個性を持っています。スリルあふれる展開を通して、「時間」に追われる現代社会への警鐘を鳴らし、また「ゆとり」とは何かについて考えさせてくれる作品です。学校に、塾に、習い事に、部活動に。日々を何かに追われて過ごしている皆さんに、ゆっくりと「時間」について考えるゆとりを与えてくれるでしょう。

読書感想文にもおすすめです。(言うのがちょっと遅い・・・)