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2008年11月の一冊『上と外』

2008.11.01

不思議な冒険体験を通して描かれる兄妹の絆

今月の一冊も第3回となりました。
今のところは順調に来ております。生徒さんからのブックレビューもいただいております。
第3回の作品は、授業で紹介したこともあり、小6、中2の多くの生徒が「ハマった」恩田陸の小説です。
恩田陸は他にも有名な「夜のピクニック」や「六番目の小夜子」など小中学生でも読みやすい小説が多数あります。また機を見てご紹介させていただければと思います。

『上と外』 恩田陸 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

恩田陸の「リアル」なSFがここでも展開されます。「んーないんだろうな、でもありえなくはないな」レベルのファンタジーです。この「上と外」は大人でも読める冒険小説とでも言っておきましょう。大人は概して冒険しないものです。懐かしき冒険の世界へのいざないです。もちろん、小中学生なら、抵抗なく入り込めるでしょう。

物語の中心は楢崎一家、異母兄弟の練と千華子。二人の父親の賢。千華子の母親で練を育てた千鶴子。この四人の視点がかわるがわる物語は進みます。賢が住む南米のG国に3人が夏休みに遊びに行きます。序盤の設定の説明は少し長いですが、物語は予想だにしない展開に。

父母とはぐれた練と千華子がジャングルで一瞬一瞬を生き抜く感じが良く、心理状態の描写も巧みです。不思議な体験を通して、練と千華子の二人の絆の深まりが描かれていきます。二人が見つけた謎の遺跡。このあたりから一気に盛り上がります。

スピード感があり、次を期待させる書き方。四人の視点が次々に変わっていき、もったいぶられます。早く次が読みたいと思わせてくれます。先が読めない展開の連続で、物語は徐々に終末に向かいます。

いろいろとツッコミどころも満載の小説ですが、、、総じて、面白いと断言できます。以下、お気に入りの表現を抜粋しておきます。物語の内容とは関係ない言葉なので、ネタばれにはなりません。


「後悔っていうのはこの世で一番くだらないもんの一つだ。何も生み出さないし一銭にもなりゃしない。胸糞悪くなるだけだ。成功も失敗も一つの過程、一つの結果に過ぎないんだよ。そこでおしまいじゃない。長い長い流れの途中なんだ。(中略)人生は、何もしないでいるには長いが、何かをやりとげえるには短い」

「そう、感情はいつもあとからついてくる。実際に何かが起きているとき、何かが動いているときには、感情は湧いてこない。足を止めた時、動きが静止した時、ようやく自分にも感情があったことを思い出す。そして、自分が本当はどういう気持ちだったのかを確認できるのは更にもっとあとになってからなのだ。」

「いつだって甘えるのは大人の方だ。大人にはいろいろと逃げる場所があるが、子どもたちにはどこにも逃げる場所はない。自分たちが甘えても、子どもたちが逃げ出せないことを親はよく分かっている。ねえ許してね、分かってねと言えば子どもたちは頷いてくれる。子どもたちは自分がここにしか居場所がないことを知っているからだ。頷くことで、自分たちが大人の庇護を受けられることを承知しているからだ。」

「親は子どもにいつも嘘ばかりついている。また今度ね。そのうちね。そう言っていつも答を先送りにしている。」

最後の二つはお父様、お母様方は耳が痛いですか?(笑)失礼しました。


小6グリーンクラス 多田さんより

主人公の練は中学生の男の子。練は生まれて間もなく実母を亡くし、練の実父、賢はその後大学の後輩の千鶴子と再婚し、妹の千華子が産まれる。しかし、練が小学校に上がる頃、練の父、賢は千鶴子と離婚。練は父方の祖父母に預けられる。 複雑な家族関係の紹介で物語はスタートするが、この物語には暗さが感じられない。豪快な父に、美人で快活な千鶴子と千華子という設定のもと、テンポ良く話が進んでいく。 離婚し、はなればなれになったこの四人は夏休みに考古学者の賢のいる中米のG国で会うことになった。
しかし、そこでなんと四人はクーデターに巻き込まれるのである。ヘリコプターから練と千華子は森へ落下し、父母とはぐれてしまう。 熱帯雨林に放り出された二人はジャングルの中を助けを求めてさまよう。危険な迷走の中、千華子が高熱を出し途方に暮れる。

そんな二人の前に、ナゾの美少年があらわれる。
そして二人は――。

短文が多く、スピード感があり、ハラハラドキドキ。長編だが引きこまれる本である。