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2012年4月の一冊『幸福な食卓』

2012.04.01

「出会い」と「別れ」と「大切なもの」のお話

受験シーズンと新入生をお迎えするシーズンがようやく一段落しました。別れの季節である春。今年はいつもに増して寂しく、でも新たな出会いがその寂しさを少しだけ和らげてくれました。
卒業生が真新しい制服に身を包み、塾を訪れてくれることや新入生たちの溌剌とした笑顔が嬉しい最近です。今日紹介する本は、出会いと別れ、そしてそれを超えて「変わらない大切なもの」がテーマの小説です。
年一回しか更新されないダメなコーナーですが、楽しみにしていただいている方もいるようなので、今年度はもっと頑張ります!

『幸福な食卓』  瀬尾まいこ / おすすめ学年 小学6年生~中学3年生

瀬尾まいこの本はいつも温かさに包まれています。自分の「読みたい本リスト」にずっと書かれていましたが、読む機会のなかったこの本。読み終わった時に震えが来ました。
「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」そんな衝撃的な一文で始まるこの小説。家族の描き方が秀逸で、主人公佐和子を包む兄、父、母はそれぞれ個性的ですが、発する言葉の端々に思いやりと優しさを感じます。お気に入りは兄の「直ちゃん」。天才児が上手く生きられなくなってしまった苦悩が、鮮やかな筆致で読者にビシビシと伝わってきます。一人ひとりの登場人物の会話における言葉のセレクトが素晴らしく、これが瀬尾まいこのセンスなのでしょう。物語はゆっくりとほっこりと進み、このまま終わるだろうと思っていたところで、まさかの展開に。 終盤の佐和子のたたみかけるような心情描写の巧みさに胸を打たれました。瀬尾まいこは中学の国語教師ですが、完全なる敗北感を感じました。小説の持つ力、言葉が持つ力を再認識させられた、そんな本です。

毎朝喫茶店で本を読んでいるわけですが、朝から喫茶店で目頭をハンカチで押える30歳の姿は、さぞおかしく映ったでしょうが、溢れる涙を止められませんでした。読み終わって外に出たとき、鎌倉の空は青く美しかったですが、それすらも当たり前に感じられるほど心は澄んでいました。
掛け値なしのおすすめです。生徒には、この本のすばらしさが分かるような子どもとなってほしいですし、保護者の皆様にも是非読んでいただきたいと思います。

北乃きい主演で映画にもなっています。こちらもおすすめです。この映画のためにMr.Childrenは「くるみ」をアレンジし直して、それが主題歌となっています。ミスチルは大好きですが、この本を読んでから「くるみ-for the film-幸福な食卓」を聞くと彼らの偉大さを痛感し、また涙が止まらなくなります。