誰もが自分という物語の主人公であることを再確認させてくれる24人の中学生の物語
半年ぶりの更新となりました。小学生向けで気軽に読めて、かつ受験にも頻出するこれぞという本が出ましたのでご紹介です。
今も、きっと昔もなんだと思いますが、少年少女たちは「キャラ作り」「キャラ設定」に必死です。「自分はそういうキャラじゃないから」とか「あの人とはキャラが違うから」と二言目には口にします。でもどうでしょう。私たち大人ですら自分の個性、自分の適正を見極めるのにものすごい時間がかかり、そして何十年と生きた今でさえ、「自分」というものをつかまえかねています。どうしてそんなにキャラが重要なんだろう。厳しいことを言えば「自分らしく」なんて言葉を使うのは、まだ早い。「らしさ」が決まっていない時こそ、うすっぺらい殻を破り前に進めばいい。閉じた扉をタタキつぶして進めばいい。どんどん新たな自分を見つけていけたら、それはとても素敵なことだと思います。
『クラスメイツ』 森絵都 / おすすめ学年:小学5年生~中学2年生
今回紹介する森絵都の「クラスメイツ」は、ある中学校一年生の24人学級のお話です。24人それぞれが主人公となる24の連作短編集ということになります。一人一人の物語は、当然ながら他のクラスメイトと多々絡み合いながら進みます。まず感心したのは、配列ですね。この順番でなければ物語にはならない、という絶妙の順番で物語は進行します。一人一人の個性がこれでもか、と浮き彫りにされる形で物語は進行します。
24人の中学生たちは、冒頭にも書いたキャラ設定が割り振られています。「お笑い」「リーダー」「不思議ちゃん」「食いしん坊」「不良」「ファッションリーダー」と中学生時代のことを思い返してみれば、「あぁ、あいつか」と脳裏に浮かぶのではないでしょうか。それぞれのキャラなりの苦しみがあり、自分が与えられたキャラを貫く生徒もいれば、それを抜け出そうともがく生徒もいます。そして、他人を見て様々な感情を抱きます。あの人みたいに面白ければ、あの人みたいに正直でいられたら、あの人みたいにおしゃれだったら。
大人からしてみれば、「そんなことで…」と思うこともあるでしょうが、子どもたちからすれば「大きな問題」となる日常の些細なことが物語の中心です。一人一人にスポットライトを当てながら些細な一年間を書いているので、全体的な物語感はどうしても薄まりますが、一つのクラスでの一年間はそんなに大きな出来事ばかりではありません。そういった意味では、リアリティのある小説でした。一方残念だったのは、全体の雰囲気が温かすぎることです。「少し田舎の少人数クラス」という舞台設定と予想されるので、どうしても仕方ないことですが、現実はもう少しトゲトゲしているし、多分もっと冷たい。一人一人のリアリティと全体のまとまりを追求したために犠牲にした部分でしょう。
会話が多く、超子ども目線で書かれていると言えます。対象年齢は低めでしょう。情景描写、間接表現の入門編として、友情や嫉妬などの感情の変化がわかりやすく描かれます。森絵都特有の色の描写、そして体言止めと口語文のバランスの良さがこの作品でもみられます。特筆すべきは本当に一人一人を主人公として描ききったところです。この登場人物のキャラクター描き分け能力は、恩田陸、誉田哲也と並んで現代エンタメ小説界ではトップクラスですね。
この本を読んだ小学生は一足先に中学生の視点を獲得することでしょう。その意味でも中学受験国語のテキストとして最適と言えます。読書はいつも読者に未知の価値観、世界を教えてくれます。文庫化はまだ先ですし、上巻下巻と二冊構成ですが、小学生高学年にこそおすすめの本です。さらにおすすめの読み方としては、ご家庭のどなたかも読んでいただくことです。(一冊1時間半もあれば読み終わります)そして、この物語を介して会話をしてください。「ここの描写は何を表しているんだろう」「この時、彼はどんな気持ちだったんだろうね」とか、好きなクラスメイツランキングや自分がこの物語の中にいたら誰と仲良しになるか、などの意見交換が出来たら、作者は感涙モノだと思いますし、二冊分の元が取れると思います(笑)
今年中にあと一冊は紹介したいと思います。 今度は中学生を意識した一冊にしたいですね。
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