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2008年12月の一冊『しゃべれどもしゃべれども』

2008.12.01

落語を通して自信をつける五人の心温まる物語

今月の一冊も第4回。
ネタ不足になっているわけではありませんが、再び佐藤多佳子の小説の紹介です。私自身が冬に読んだこともあり、何となく冬に読むと心があたたまるかな、と思い、ご紹介させていただきます。「落語」というテーマに抵抗をもっていても、すんなり入れます。保証します。

『しゃべれどもしゃべれども』 佐藤多佳子 / おすすめ学年 小学5年生~中学3年生

落語家の今昔亭三つ葉は、頑固で短気。型にこだわり、今ひとつ落語家として大成しない、主人公です。それにひょんなことから吃音の良、人前で素直になれない十河、関西弁の村林少年、口下手な解説者で元プロ野球選手の湯河原に落語を教えることとなります。
落語を教える中で、徐々に生徒たちの生活にも踏み込んでいく三つ葉。おせっかいが実って、それぞれの道を前へ進み始めます。

さて、佐藤多佳子は「一瞬の風になれ」でお馴染みの作者です。「一瞬の風になれ」を読んだ方は続けてこちらもどうぞ。本書はタイトルに惹かれて手にとって見たのがきっかけです。内容が落語ということもあり、テンポが良く、平易な文章の中にユーモアが溢れています。にやけながら、読み進めることができました。作品自体が一つの落語的面白さを持っています。そして、ラストへ向けて盛り上がります。最後の発表会まで一気に読みきることができました。いいセリフもたくさん散りばめられています。

「普通の子なんていやしませんよ。みんな独特です。大人が勝手に普通なんて枠をはめて安心するだけです」

自信を失いつつある三つ葉は考えます。
「自信って、いったいなんだろうな。自分の能力が評価される、自分の人柄が愛される、自分の立場が誇れる―そういうことだが、それより、何より、肝心なのは、自分で自分を”良し”と納得することかもしれない。”良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、”良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。だが、そんなに適量に配合された人間がいるわけがなく、たいていはうぬぼれたり、いじけたり、ぎくしゃくとみっともなく日々を生きている。」
「自分が大事だと思っているものから逃げると、絶対に後悔する」

十河のお茶の先生の言葉。
「一期一会というんだよ」
「お茶の心だよ。同じお茶会というのは決してない、どの会も生涯にただ一度限りだという心得さ。その年、季節、天候、顔ぶれ、それぞれの心模様、何もかもが違うんだよ。だからこそ、毎度毎度面倒な手順を踏んで同じことを繰り返し稽古するんだよ。ただ一度きりの、その場に臨むためにね」

ラストのおきまりのシーンはいらないような気もしますが。。。村林の落語の披露が終わった時点で、小説を終結させてよかったような気がします。

ほんのり温かく、でも、コテコテしていません。気分が少し暗い時、落ち込んでいるときに読むといいかもしれません。おすすめです。